本レポートは、私たち「未来のためのエネルギー転換研究グループ」が2021 年2 月に発表した「レポート2030:グリーンリカバリーと2050 年カーボン・ニュートラルを実現する2030 年までのロードマップ(以下、レポート2030)」の内容をアップデートし、あるべき日本における2035 年の温室効果ガス(GHG)排出削減数値目標などを具体的に示すものである。
2020 年10 月、当時の菅義偉首相は、米国政府を含む国際社会の要求にこたえるかたちで2050 年にカーボン・ニュートラルを、すなわちGHG 排出を実質ゼロとすることを表明した。続いて2021 年 4 月 には、日本の「国が決定する貢献(NDC)」として、「GHG 排出量を2030 年度に2013 年度比46% 削減」するという数値目標(以下、46%削減目標。1990 年比では40%削減、2019 年比では38%削減)を示し、2021 年10 月には、これらの新目標と整合性がある第6 次のエネルギー基本計画(以下、エネ基)が閣議決定した。2023 年6 月には和製英語であるGX(グリーントランスフォーメーション)を名目とする二つの法律が成立し、2023 年7 月には「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(以下、GX 推進戦略)」が閣議決定された。さらに、2024 年2 月13 日、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律案(水素社会推進法案)」と「二酸化炭素の貯留事業に関する法律案(CCS 事業法案)」の二つが閣議決定され、2024 年4 月9 日衆議院を通過後、2024 年5 月17 日には参議院本会議で可決・成立した。
そして、2024 年5 月15 日、経済産業省は、有識者会議(総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会)を開催し、エネルギー基本計画の見直しに向け、議論を開始した。すなわち、2030 年、2035 年、2040 年、2050 年のエネルギーミックスおよびGHG 排出削減の目標値に関する議論が本格的に議論されることになる1。そのような中、まず認識されるべきは、下記で述べるように、政府が謳うGX や今の2030 年目標は「グリーンウォッシュ」、すなわち見せかけの気候変動対策であり、必要なGHG 排出削減も、電気代削減などの経済的なベネフィットも、化石燃料輸入削減などのエネルギー安全保障の確立も、いずれも日本にもたらすことはないという事実である。
(東北大学教授)
(東京経済大学准教授)
(関西学院大学教授)
(環境エネルギー政策研究所理事)