前言

本レポートは、2050年までにカーボン・ニュートラルを実現するための、2030年までのロードマップを示すものである。これは、日本のグリーン・ニューディールであり、コロナ禍からのグリーン・リカバリー(緑の復興)を実現するための具体的提案(グリーン・リカバリー戦略:GR戦略)である(私たちは、グリーン・ニューディールとグリーン・リカバリーという言葉を、ほぼ同じ意味で用いる)。

2020年10月26日、菅首相は、新たな目標として「2050年カーボン・ニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)」を表明した。また、2020 年12 月25 日、政府は「2050 年カーボン・ニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表した。しかし、後者においては現行の目標や政策の大きな変更は見られず、このままでは、前者は単なるスローガンに終わってしまう可能性が極めて高い。

一方、世界では、欧州グリーンディールや韓国ニューディールなど、景気回復や雇用創出、そして脱炭素をめざして、政府レベルでグリーン・リカバリーの具体案が打ち出されている。また、第46 代米大統領に選ばれたバイデン氏の気候変動・エネルギー政策も、これらと軌を一にするものである。

日本では、2019年6月に私たちが「原発ゼロ・エネルギー転換戦略」(未来のためのエネルギー転換研究グループ2019)を発表した。これは、その具体性および包括性という意味で、唯一の日本版グリーン・ニューディールであり、政府による現行のエネルギー基本計画の代替案である。

私たちは、この「原発ゼロ・エネルギー転換戦略」をベースに、本レポートにおいて、GR 戦略として2030年までの数値目標、投資額、経済効果(GDP追加額、エネルギー支出削減額、雇用創出数)、CO2排出削減効果、大気汚染対策効果(PM2.5による早期死亡者回避数)、政策、失業対策、財源などを、具体的かつ体系的なロードマップとして提示した。このGR 戦略によって、日本でのグリーン・リカバリー、グリーン・ニューディール、エネルギー基本計画改訂、温室効果ガス排出削減数値目標(NDC)引き上げ、そして「2050年カーボン・ニュートラル」に関する具体的な議論が深まることを期待する。

レポート

未来のためのエネルギー転換研究グループ

主な執筆者(五十音順/所属は当時)

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明日香壽川

(東北大学教授)

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甲斐沼美紀子

(地球環境戦略研究機関研究顧問)

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佐藤一光

(岩手大学准教授)

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槌屋治紀

(システム技術研究所所長)

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西岡秀三

(地球環境戦略研究機関参与)

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朴勝俊

(関西学院大学教授)

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松原弘直

(環境エネルギー政策研究所理事)

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